上がり続ける物価上昇へのデンマークでの対応策

先日、2022年3月のアメリカの消費者物価指数が前年同月比で8.5%上昇し、この上昇率は1981年12月以来、というニュースがあった。大変な数字だ。デンマークでも例にもれず、同じ2022年3月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比で5.4%であった。日本はまだ2月のものしか公開されていないが、総務省の発表によると同基準の前年同月比で0.9%とされているようだ。上昇はしているものの、驚きの小さな数字だ。それでも、日本でも物価上昇にどう耐えていくかという報道もされているくらいだから、消費者の実感としてはどこも同じく厳しいものなのだろう。

デンマークでは、天然ガス(18.8%)や原油、電力といったエネルギー価格の上昇に加えて、食品(6.8%)も価格上昇が著しい。例を取ってガソリン価格を見ると、年始からそもそも上昇に向かっていた価格がロシアのウクライナ侵攻の影響を受けて、さらなる上昇に向かったことが見て取れる。下図で、右側のピンク色のところがウクライナ侵攻後であり、その動きの著しさは目を見張るほどだ。

こうした価格上昇を受けて、デンマークの消費者もこれまではあまり真剣に考えてこなかった暖房源や通勤手段といった月々の出費に気を配るようになったようだ。もっとも値上がりした天然ガスによって暖房や温水を供給している家庭の場合には、これまでなら15分間浴びていたシャワーを5分で済ますようにするだけで、1年間に10万円近くの節約になるという。また、室内の設定温度も1度下げるだけで約5%の削減になり、例えば25度の設定を23度に下げるだけで、たちまち年間3万円ほどの節約につながる。この「1度下げて5%削減」の原則は日本も同じようで、エアコンの場合にはかなりの電気代が節約できるようだ。(日本の環境省は、冬場は20度の設定を推奨しているようだが、室内はいつでも温かいデンマークからすると20度というのは寒い気がする)

この記事を書いた理由は、こうした個々人での節約術を紹介するためではない。こうした(国内だけでは対処できない世界での経済や政治状況を受けての物価上昇に、デンマークの政治家がどのように対応を見据え、政策を打って出るのかを紹介したいと思ったためだ。

まずは、急騰するエネルギー価格によって、2021年2022年に暖房費の支出が急拡大してしまった家庭への緊急支援として、デンマーク政府は2022年3月30日に、特別の暖房小切手を出すことを決定した。最初に検討されていた給付額よりも増額されたおよそ6000クローネで合意され、所得制限も当初の予定よりも相当引き上げられ、年収650.000クローネを超える場合に限るとなった。1.ガス暖房、あるいは65%以上をガスを利用する地域暖房、2.同じ値上がりをしている熱ポンプとガスの混合型の暖房、そして3.同等の値上がりをしている電気のラジエーターと熱ポンプを主な暖房源としている場合、に該当していれば、自動的に給付がされることになっており、20億クローネの予算を見込んでいる。まだ登録されたデータから該当家庭を見つけ出すシステムが構築されていないため、給付は8月か9月になると見込まれている。今、緊急に支援が必要という国民はやきもきしているようだが、今回のように一回限りの特別な基準を満たす家庭を緊急に見つけ出すのに時間がかかるのは、ある程度仕方がない部分もある。

以下で紹介するものは、まだ決定したものではなく、まだ各党の提案にすぎない。それでも、「デンマークのような国では、こういうやり方を考えるのか!」という参考になると考えるので、紹介したい。この記事のもととしたデンマーク国営放送DRの記事が、政党ごとの提案の聞き取りに大きな差があるので、丁寧に説明しているところとそうでないところがあるが、その点はご了承願いたい。

SF(社会人民党)は、高齢者と子どものいる家族のために給付金を提案する。高齢者には、4600クローネの特別な高齢者小切手、子どものいる家族には「緑の小切手」を額を引き上げて、1500クローネを非課税で受けられるようにする。(デンマークの「小切手:チェック」という表現は、課税されない給付の場合に使われる)

注)「緑の小切手」とは… 生産者が環境に配慮したことで様々な物・事の価格が消費者の支払う価格に転嫁されたが、年金生活者や所得の少ない人にとっては逆進性により負担が重くなる。そのため、年金生活者や所得の少ない層に対し、増額された分を補う「小切手」が出されるようになった。年金生活者で、2022年で年間875クローネ、その他の18歳以上の成人は年間525クローネとなっている。なお、年間の所得が429.200クローネを超える場合に、最高税率を課されている分の7.5%を減額される。年収が250.800クローネに満たない場合には、さらに280クローネ、子どもがいる場合には2人を上限として60クローネが加算される。

そのほかにも、SF(社会人民党は)奨学金SUを受給している学生に対して、課税前で2000クローネの特別給付を出すほか、他の困難を抱えるグループに対する様々な支援金として、9億クローナの予算をつけ、全体では30億クローネを見込む。

Venstre(自由党)は電力税を引き下げ、勤労控除を引き上げ、政府のものより多くの家庭への暖房費支援を8月より早く手元に届けられるようにすることを提案している。

DF(デンマーク国民党)は、交通費控除を引き上げるとともに数々の税金を減らし、勤労控除を引き上げることを提唱する。

Enhedslisten(統一リスト党)は短期策と長期策を持って臨むべきと考えており、短期的にはSF(社会人民党)の案がまずは現実的で、長期的にはすべての福祉給付の金額を見直し、物価上昇に見合うものにしていくべき、としている。

Konservativ(保守党)とLA(自由同盟)は、所得税を減税することを提案する。所得税を減税することで使用者はこれまでと同じ給与支払いでより多くの労働者を獲得でき、人件費の支払いを大きくすることなく国内のインフレを抑えることができる、とする。社会民主党や統一リスト党の提案する一度きりの給付金はいい案ではないとし、たくさん税金で取っておいてそれからあれこれ給付をするのではなく、最初から税金をそんなにとらなければいいのだ、と主張する。

与党の社会民主党は、ここでは具体策は提示しないが、さらなる案を検討しているとだけ回答している。

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ロシアからへの制裁と関連して天然ガスの国内供給が厳しいことを受けて、今日、2030年にはデンマークは天然ガスなしでやっていくという方針を表明した。環境に配慮した電気、バイオガスなどをより拡大しつつ、2030年には天然ガス完全廃止を目指しつつ、ここ数年は北海油田の天然ガスの生産を拡大する方針で進める。バイオガスや環境に配慮したガスの供給が需要を満たすまでは、プーチンからガスを買う代わりに北海のガスに頼るのは必要な選択だとする。北海油田の原油・ガスの採掘は2050年までに終了することになっているが、この計画には支障はないとされている。

 同時に、太陽光発電や風車を2030年までに4倍に増やし、さらに洋上風力発電やエネルギー島と呼ばれる発電施設を備えた島も充実させ、国内の電力需給を賄うことを目指す。

エネルギー価格の上昇を受けて、短期的に1.(ロシア以外の)代替エネルギー源の獲得、2.それに伴う価格上昇による国民負担を下げる方策、そして長期的には、2.自然エネルギーによる十分な供給、3.エネルギー利用の効率化を進める、といったことの重要性がさらに強く認識されるようになってきたといえる。

コロナ下でのデンマークの雇用状況

コロナが始まって以来のデンマークの雇用状況について尋ねられる機会があり、少し系統だって調べたので、まとめてみたい。

デンマークでロックダウンの判断が下されたのは、忘れもしない2020年3月11日のことだった。数々の営業制限や行動制限が指示され、それによって自宅で待機を余儀なくされる者ややむなく解雇される者も増えた。ロックダウン直後の緊迫した国内の様子や政府の対応については、福祉社会の試金石としてのコロナウィルスで詳述しているので、そちらを参照されたい。

労働市場の「柔軟性」と雇用の「保障」を合わせた「フレキシキュリティー」で知られるデンマークでは、直ちに政労使の三者合意による雇用の保障が行われたが、それと同時に雇用省では柔軟性の証左といえる失業・休業中の教育訓練に力を入れ始めた。つまり、休業補償を出して使用者に対して労働者を解雇させずに自宅待機させる一方で、コロナで傷ついた市場が回復した時を見据えてその時に備えた教育訓練を積極的に実施したのである。

危機に失業者の底上げを 能力向上に投資することがコロナ危機にあるデンマークを強化する』と題された政府の施策では、2020年8月から2021年にかけて9つのイニシアチブをだし、教育訓練に参加中には通常の失業給付の110%に増額するなどの動機付けを行ったり、無資格で働いてきた人を資格取得のための教育に参加させ、その間の業務を失業者が引き受けるといったジョブローテンションを行うといった提案で、特に技能の高くない労働者全体の底上げとなる、教育・訓練を積極的に行うようにした。コロナ前と比べて4万人増加したといわれていた失業者だったが、その多くが若者、低スキルの労働者だったことがこうした施策の背景にある。

2020年のクリスマス年末は非常に大きな制限のかかったものであったが、イギリス変異種の流行が落ち着いた2021年2月末になると、経済が再開される。コロナ下での解雇が広がっていたホテルや飲食業界といったサービス業を中心に、経済再開によって労働力不足が声高に叫ばれるようになり、5月になると早くもコロナ前よりも失業率は下がり、3.8%程度になった。政府による数々の援助パッケージや積極的な金融政策が功を奏したといわれる。たまたま凍結される予定になっていた休暇基金5週間分を、コロナ対応として緊急に引き出せるようにして国内経済を活性化させたことも功を奏して、2020年のGDP成長率は前年比でマイナス3.7%に留まり、他のEU諸国よりも打撃は小さかったことも早い回復の前提となった。

そして、その後もどんどん下がり続けた失業率は、2021年第二四半期にはEU27か国の中でも最も下がり、10月には3.1%になった。雇用大臣のフメルゴー(38歳、男性)は10月9日から8週間の育児休暇に入ったが、休暇直前の話題はもっぱら、どのようにして労働力を確保するかというものだった。育児休暇中の彼の代行として、外国人統合省大臣を務めているテスファイェが兼任することになった。

しかし、そこにオミクロン株がやってきた。世界でオミクロン株の感染の広がりの速さに警戒が叫ばれ始めた時、デンマークにもいち早く感染者が出た。11月28日に最初の感染者を出してから、オミクロン株の感染者はどんどん広がりを見せ、わずか3週間でコロナ感染者全体の3分の1を占めるようになり、12月21日にはオミクロン株が大多数を占めるようになった。これまでマスクもしないで生活ができていた日常は、また去年のような緊張感を取り戻すことになった。あまりにもオミクロン株の広がりが大きいため、20日からは陽性反応後にさらにオミクロンかどうかを調べることをしないという戦略の変更が発表された。これまで、オミクロン株の場合には濃厚接触者もより厳格な隔離措置をとるように指導されていたが、今後は通常のコロナ陽性反応者と同じ対応をとるように指導される。

12月になってコロナの感染者は連日12000人程度となっており(今日12月26日には15000人弱にまで上がり、一日の感染者数は記録を更新した)、感染者・濃厚接触者がこれだけ増えたことで、文化施設の閉鎖を中心としたさらに厳しい制限が導入されたが、このことは同時に経済も停滞しかねない。そこで、クリスマスを目前とした12月10日に政府は再び政労使の三者協議を行い、さらなる補償制度を発表した。

12月1日から2月28日まで少なくとも売り上げが30%減少した企業や個人事業主は、補償を受けることができる。 30%の以上の従業員を自宅待機にさせている企業では、従業員の給料を時給で支払っている場合には90%、ホワイトカラーの場合には3万クローネ(52万円程度)を上限として給与の75%を補償する。強制的に閉業を迫られた業者には、100%の固定費を補償する。クリスマスの時期の週末に長持ちしない食べ物などを売るつもりで用意していたものの、店を開店することができなくなった業者に対しても、廃棄処分の補償として4万クローネが出される。特別な貸し付け措置も2月28日まで延長されることになった。

これだけ重要なことが決められた時期に、雇用大臣が育児休暇を取っているというのは、さすがデンマークと思わざるを得ない(彼が職務に復帰したのは週明けの12月13日からである)。フメルゴーは男女平等省の大臣も兼任しているが、まさに大臣であれ、働く一人の人間で、家族や家庭があり、そこに優先順位を置いてよいのだと示している。こうした措置により、人々は困窮することなく、何とかクリスマスは終わろうとしている。17日に19日からの文化施設の閉鎖が突然発表され、チボリ公園で子どもとクリスマス気分を楽しもうと思っていた人は、急な閉鎖に足元をすくわれた思いだろう。くるみ割り人形を見に行く予定にしていた私たちも、公演中止の連絡にあと1週間早い日付を選んでいれば、と臍を噛んだ。学校は冬休みを前倒しの上さらに延長し(付け加えられた分は「自宅学習」の名目ではあるが)、丸3週間が休みとなっている。

政府としても、労働不足が問題になっているところに雇用者を自宅送りにして給与補償をするという矛盾に、これがコロナの緊急事態における一時的な救済措置であることを願っている。この間政府は、3度目のワクチン接種を根気よく要請し、5歳から11歳の子どもに向けても接種を始めた。ワクチン接種を済ませていない低学年を中心に、学校でも感染が大きく広がった12月は、検査場もどこも予約でいっぱいで大変だった。ようやくオミクロンが収まり、平静を取り戻したころまでデンマークの経済はもっているのだろうか。2月いっぱいを限度にした援助パッケージなどを見ると、政府はこの冬を雌伏の時と見て、春には抜けられると考えているように思える。春に雄飛の時を迎えることができるのか、注視したい。

デンマークのコロナ感染者への対応 日本との比較

(ひとつ前の記事の続きです。え、感染したの?という方はこちらから)

これで、金曜日朝に始まった自主隔離も4日目に入った。今朝になり、ようやく熱も36度台になって、すごく楽になった。幸い、今のところ同居家族にはうつしていなかったのか、土曜日に行った濃厚接触者へのPCR検査では、ふたりともウィルスは検知されなかった。まだ潜伏期間中である可能性もぬぐえないので、彼らも基本的に外に出ることはできないが、安堵したことは事実である。再度、4日目、6日目のPCR検査を経て、ようやく真の陰性と認められることになる。それまで私も自主隔離を徹底して、彼らを守らなければならない。

私自身は今日が、「症状なし1日目」となるから、通常だとここから48時間で、つまり水曜日の朝には隔離を解けることになっている。しかし、私の場合には「ほぼ無症状」というカテゴリーになるため、検査日から1週間は自主隔離が勧められるので、木曜日午後まではこのままの隔離生活を続けなければならない。金曜日に家族のPCR検査の結果が出て、それが陰性なら、私も含めて皆で家のなかはこれまでの生活に戻れるだろう。

この間、デンマークの情報とともに、日本の陽性反応者、濃厚接触者に向けた対応も比較して参考にしようと調べていた。大きな対応の違いは見られないが、日本ではそれぞれの役所や自治体がそれぞれ自分でパンフレットなどを作り、そこに案内することで、多くの文書が出回っている印象を受ける(コロナ対応でやることも多い中で、そこに時間を費やす必要があるのか疑問がある)。また、自然災害が多い日本では、陽性反応がでて自宅療養している人や感染の可能性があり自宅観察中の人に対して、それぞれの自治体が特別の避難場所案内などを想定・準備していることに、対応の苦慮がつくづく想像された。日本の行政では当然なのだろうが、何と手間のかかることだろう。せめてコロナが安定するまで自然災害は一時休止してほしいと心から願う。

デンマークではコロナに関しては、管轄省としては感染に関する情報は保健省および直下の保健庁、予防やワクチン接種に関する情報普及に関しては国立疫学研究所(SSI)、感染者に対しての助言や感染追跡には患者保安庁と所轄がわかれており、それらが互いに協力し合いながらも中央集権的に動いている。症状に関連した医学的な助言をするのはかかりつけ医で、必要に応じてそこからの紹介で病院へと進む。各自治体でもコロナ対応は当然あるが、具体的な指示に関しては上記の公共機関のガイドラインに従うように、そちらから発行されているPDFファイルなどを参照・案内するため、自治体ごとのぶれが生じにくい。PCR検査が無料ですぐに受けられる環境があること、その結果がほぼ必ず翌日には届くことは、感染予防の要として、うまく機能していると思う。連日すごい数の検査(例えば昨日は134.208件、人口比から日本でいえば一日で300万件規模で検査していることになる)をしているので、感染者数もそれなりだが、大局的にはきっと拡散防止の役に立っているはずだ。

なお、日本の保健所の調査のように、毎日体温を測定したり、状況を報告するように言われたりはしない。私も発熱以来、体温は定期的に図っているが、特別記録はしていないし、とくに誰にも聞かれない。病状に変化があり、医療的な助言や治療が必要と思われたら、自分でかかりつけ医(や緊急救急)にコンタクトする責任があるということだ。感染拡散防止のために電子私書箱に感染者に向けたパンフレットは送られてきたが、それだけで、私の「病状」(というのはおこがましいくらい軽症だが)がその後どうかというのは、今のところごく一部の家族や友人に個人的に問われただけに過ぎない。一人暮らしでないことがわかっているから、No news is good newsと思われているのかもしれないが。自分は今のところ関係ないが、日本で聞くような、自宅療養で経過観察中に急変して大変なことに…みたいなことが起こっていないのか、少し疑問に思う。私の予想だと、しばらくして自主隔離が解け、自動的に「みなし完治者」になり、落ち着いたころ、疫学調査のためのアンケートなどが送られてくるのかもしれない。

まとめると、デンマークでの感染拡大防止のための聞き取りは丁寧に行われたし、正しい感染管理ができるように具体的な指示ももらえた。そして、陽性反応者・濃厚接触者の日常生活やコロナの症状のことでも、質問があればいつでもできる環境は与えられている。しかし、感染管理・拡大防止を超えた、病状のコントロールについてはそれぞれの人が自分で必要に応じて、アクティブに情報や救援を求める必要があるということになる。生活していて感じる、自立・自律した市民を求める社会は、こうした政策にも投影されている。

(追記)

上記では、医療的な部分での問い合わせが全くなかったと書いたが、かかりつけクリニックの医療秘書から症状を問う電話がかかってきた(心配していただいて、ありがたい)。陽性の確認から3日ほどたってはいるが、最初から軽症と見られたこと、週末だったことを考えると妥当かもしれない。 もう大丈夫だと告げたが、何かあればクリニックに電話するように言われた。

日本では、保健所で病状の把握から状況によっては入院の受け入れ先探し、感染拡大防止まで何でもやらざるを得ないから、キャパを超えてしまっているのではないかという気がする。同時に、ここまでデンマークが進めてきたデジタル化の恩恵をいやでも感じざるを得ない。大きくいって3点はあげられる。(その大前提にCPRという個人番号制があることは、いうまでもない)

1.PCRテストの予約 個人のデジタルIDでログインし、近くで便利な検査場を選び、都合のいい時間を選んで予約することができる。

2.電子私書箱に届く関連パンフレット 「陽性反応が出た方へ」「濃厚接触者の方へ」などとたくさんのパンフレットがあるが、各行政機関のHPからダウンロードできるのはもちろん、直接電子私書箱に届くものもある。これらが印刷され、各感染者のいる世帯に郵送される必要があるのだとしたら…ぞっとする。また、外出厳禁でさらに病床についている人の場合、スマホをいじることはできるだろうが、外のポストに郵便物があるかを確認しに行って、開封するとは思い難い。そう、自分のそして家族の身を案じる感染者は、余力があれば情報を求めてスマホで検索するのだ。

3.ハイパーリンクでどんどんつながる、関連情報 上記のパンフレットなどを読んでいても、「コロナに似たのある症状のある人の場合」「2歳未満の子どもの場合」など、さまざまなハイパーリンクがあり、その情報に関係・興味のある人がどんどんたぐっていけるようになっている。これが紙のパンフレットだったら、行政職員(保健所職員?)が関連がありそうなものを見繕い、何種類もパンフレットを封筒に詰め、送るのだろうか。気が遠くなる話である。

デジタル化されてもなお、電話で直接、状況に関する知識を持った人が対応してくれることの安心感は計りしれない。慌てているとき、時間や気持ちに余裕がないとき、電話できる窓口があり、すぐに対応してくれるのはすごくありがたい。しかし、逆に言えば、慌てていないとき、時間や気持ちに余裕があるときには、電話で誰かに対応させなくても、自分の力で読んだり、調べたりできるし、したいのだ。それを適える情報の電子化が、逼迫する医療セクターや行政の対応を考えたときに効率化を進めていることは間違いない。

デンマークのコロナ感染者への対応 -実体験に基づいて

先週日本の友人から、デンマークの政策的なコロナ対応について質問を受け、回答をしたばかりのところに、何と自分が感染してしまった。自分の経験した範囲でのデンマークのコロナ感染者への対応を記録し、歴史的な現象の一部となってしまった自分の体験を日本へ紹介してみる。自主隔離のやり方も、デンマークの管轄官庁が勧めているやり方に忠実に従っているものなので、誰かの参考になるかもしれない。

Madogucciの業務に加え、医療・保健セクターの仕事を非常勤でしているため、コロナ危機以降も細心の注意を払いつつも、定期的に出勤し、人と接してきた。この仕事と関連し、隔週そして先週辺りからは毎週、PCRテストを受けることが推奨されているため、一昨日の木曜日に仕事後に仕事関係者に向けた検査に出かけた(週に2回、決まった1.5時間あるいは1.5×2時間しか開いていないが、予約不要で検査料は無料。待ち時間もほとんどない)。この時は特に自覚症状はなかった。

翌日、つまり昨日金曜日の朝になるが、朝から体が熱く、38度2分の発熱が認められた。別の体温計で複数回測っても同じ結果で、ともに暮らす家族は36度台といたって普通。ようやく自分に熱があることを認め、職場に電話することにした。何らかの症状がある場合には欠勤するように言われるので、やむなく欠勤し、コロナの可能性ありと認め、その瞬間からマスクをして自主隔離に入った。キッチンにはいかず寝室に籠り、お茶や食事も運んでもらい、トイレは使用するたびに、ドアの取っ手から便座の蓋、便座、水道の蛇口、電気のスイッチに至るまで消毒した。この時点で私の陽性確定はまだであったが、国立疫学研究所の資料によると子どもを保育園にも送っていいというので、リスクを回避するためにも家族に子どもは保育園に送り出してもらった。

日中は何度も体温を計測するが、38度を下回ることはなく、ベッドで横になってだらだらと過ごすもすっきりしない。家族も職場で仕事をしているため、私の発熱とリスクを理由に、彼の週末の出勤がキャンセルされた。

通常は、sundhed.dkという保健ポータルに自分のログインしてPCRテストの結果を見にいくのだが、前日に同僚が同ポータルとリンクしたこの保健アプリがよいといっていたので、そちらをたまたまダウンロードしていた。PCRテストの結果が来次第、携帯に通知が入る機能があり、それも合わせて登録した。

夕方になって、待っていた通知が届いた。慌ててアプリでログインすると、なんと陽性。恐れていた状況が現実になってしまった。慌てて勤務先に電話すると、数日前に亡くなった方がイギリス変異種に感染していたらしい、と耳にする。私もその方との接触はあったから、マスク等はしていたものの、そこからうつったのかもしれない。

症状は熱だけで大したことはないが、心理的なショックは大きく、その日は大したことは何もできなかった。陽性だった人に対するパンフレットを見て、自分の、そして家族の身の処し方を自分なりに学んだ。そして同じアパートに住む人たちにメールで、感染を通知した。コロナが始まって以来、このアパートでは(おそらく)皆そうしており、14世帯ほどの小さなアパートだが、すでに私ですでに6人目だ。

翌日になって、自分の検査結果に変異種なのか書いていないかをチェックしていて、感染追跡のための電話番号が書いてあるのに気づいた。陽性反応が出た人に、できるだけ早くかけるように呼びかけている。電話すると、あっというまにつながった。内部回線は、0.英語での対応を希望する人、1.陽性反応が出た人、2.濃厚接触者で、今後の行動について助言を受け、PCR検査を受けたい人、3.濃厚接触者でPCRテストの日程を確保したい人、4.変異種に感染したとわかっている人、となっていた。自分の電話番号を登録してあれば、向こうからかかってくるようではあったが、私の場合にはここで自分でかけ、電話口で番号を登録してもらった。

まず、どんな症状があらわれているかを問われ、昨日の朝から発熱があったが、今日はすでに37度台にまで下がっていると伝えると、1日半の発熱というのは「ほぼ症状なし」のなるとのことで、通常なら、症状が完全に消失してから48時間で隔離が解かれるところだが、検査日をゼロ日目として、1週間後に隔離が解かれることになるそうだ。感染後8週間は、他に感染させる力がなくとも検査結果では不活性化したウィルスが陽性反応になることがあるため、私には8週間、検査は受けることは推奨しないそうだ。例外としては、ごくまれに再び感染するケースも報告されているため、再びコロナの兆候が現れたら、その際には検査を勧めるとのこと。

テストを受けた2日前から感染していたことになるらしい。私は感染追跡のためのアプリを入れていなかったため、テスト前2日間の行動を問われた。幸い、火曜日水曜日は自宅で仕事をしていたため、どこにも出かけていない(と思っていた 後述)。木曜日は仕事に出かけたが、職場にはすでに連絡してある。発熱があり、金曜日の朝から自主隔離していることを伝えると、その処し方で正しいといわれる。トイレは二つあるので、家族は別のトイレを利用するように言われた。当然、保育園児が完全に距離を取ったり、近寄らないというのは難しいので、ごくたまに寝室にやってくるが、距離は必ず取るように言い聞かせている。

濃厚接触者はすぐにPCR検査を受けるようになっているため、コロナテストの予約サイトに私のIDでログインをすると、すぐに保護者として子どもの検査予約をすることができた。翌日土曜日、今無事に行ってきたところだ。 感染者と共に生活する濃厚接触者は、直ちにPCR検査を予約し、さらに4日目、6日目に検査をする必要がある(計3回 すべて無料)。 子どもの検査はあっさりと好きな時間を予約できたが、成人の時間はすでに埋まってしまっているようで、子どもの検査に合わせた時間にいかれない。これを私の電話口で伝えると、濃厚接触者の検査の場合、特別枠があるので、上記の感染追跡の電話番号で、内部2番あるいは3番に電話し、私の感染ケースの番号を告げれば優先予約できるという(実際にできた)。これは感染の可能性があるなか、2回出かけるという手間もリスクも省け、非常にありがたかった。検査には自転車で向かい、公共交通でのほかの人との接触もなかったが、ここから彼らも隔離に入り、買い物もできなくなる。

感染者同士が一緒にいることで、症状が悪化したりすることはないので、もしも運悪く家族も感染しているのであれば、今のような私の隔離は不要になるらしい。また、変異種であったとしても、症状が重くなるということはない、とはっきりと伝えられた。急に、検査前日に歯科医にいっていたことを思い出した。歯科では、マスクを取り、治療をしてもらった。直ちにコンタクトを取るようにということで、電話したが、運悪く土曜日…つながらない。メールをしたところ、幸い、数分後に対応者してくれる方がいて、これで歯科医と衛生士がすぐに検査にいってくれれば、ととりあえず安堵した。面倒を引き起こして恐縮だ、と書くと、「すまながる必要はない、デンマークの状況がいまそうなのだから。どうぞお大事に。」と優しい返答があり、心に沁みる。

私がどこで感染したと思うかと問われる中で、職場でのイギリス変異種の可能性があることを告げると、4番の内線にかけるのがよいという。これに関する特別の知識を持った人が対応しており、質問にも答えてくれるようだ。かけてみると、すべてのPCR検査をさらなる分析にかけ、変異種かどうかと調べているわけではないが、もしも変異種と分かった場合には、電話で通知してくれるという。変異種の場合には、感染力が強いため、濃厚接触者も3回のテストで陰性反応が出ても、計14日間は隔離を解けないらしい。

家族に保育園児がいることを告げると、私自身が一人で自主隔離をする方法もあるが、家族として全体を(社会から)隔離する方法もあり、どちらを選ぶかは私たち次第だと言われた。家族内で、一緒に寝食を共にしたり、一般的な衛生管理で済ませられるようになるのは利点だが、その場合には、当然全員が感染する前提となる。感染した後遺症が家族に残るのは避けたいので、私はできるだけ、自分だけで済ませたいと考えている。その場合、家族にきちんと会えるのは、少なくとも一週間後ということになる。辛い時だけれど、それがみんなを守り、デンマークを守ることになるのだから、といわれて、ぐっと来てしまった。そうだ、みんなで一緒に国難に対処しているんだという思いが込み上げてきた。

ガイドラインによると、子どものPCR検査が陰性だった場合、すぐに子どもを保育園に送っていいらしい。しかし、変異種の可能性もある今、それが通用するのか。質問すると、やはり、3回の検査で陰性が証明されるまでは難しそうだとわかった。来週一週間くらいは少なくとも、自宅でみんなで警戒しながら生活することが求められる。その他、外国への渡航歴はないか、最近渡航した人と接触はなかったかなどを問われた(もちろんない)ほか、洗濯はできる限り高温の60度で行うなど、細かな指示もあった。

今の段階では私の年齢や健康状態もあり、悪化していないこともあるが、万が一体調が急変したらどうしたらいいのか、といったことは一切話していない。1日目の今としては、感染を他に広げないために、どうしたらいいのかの対策を練り、すでに感染させたかもしれない人たちにコンタクトすることに集中している状況といってよい(誰もがそうとは限らない。私が質問しなかったからかもしれない)。なお、コロナ関連であれ、医療のことは自分のかかりつけ医にコンタクトすることになっているようだ。もちろん緊急の事態であれば、通常の緊急の時と同様に、1813に電話して病院へ行かれるように手配するようになるだろう。

自宅療養が基本だが、私の場合には面倒を見てくれる家族もいて、不安もない。ありがたい。なお、感染者で(例えば、高リスクの病気持ちの家族が一緒に生活しているなどで)自宅での隔離生活が難しい場合、一時滞在ができるところを自治体に紹介してもらえることになっている。仕事は、今後どのくらい欠勤をしなければならないのかにもよるが、今のところは少なくとも来週まで、通常の病欠として扱われるはずだ。コロナでも普通の病気と同様に、疾病失業給付が受けられる。また、職場での感染は、それが証明できる場合、労災として扱われるそうだが、労災というほどの後遺症などが残らないように願うばかりだ。

ここまでは、自分で積極的に管轄する当局にコンタクトして助言などをもらったことだが、今日になって電子私書箱に「新型コロナウィルス陽性反応が出た方へ」というパンフレットが送られてきた(6ページの文書で、3ページがデンマーク語、3ページが英語)。こうした積極的な隔離あるいは身の処し方の呼びかけも送られてきたことも付記しておきたい。

日本でも、発熱などの症状がある人が出かけて感染を広げてしまうことがないように、デンマークではこれだけ徹底的に、そして上からのはっきりとした指示で対策が進められていることを紹介してみた。人によってはパニックにさえなりかねない状況で、電話口で人と直接話せるというのはありがたいし、話す人たちは誰もが親切で親身になって助言をくれた。電話もすぐにつながり、安心感がある。

私たちはもう長い間、仕事以外には誰にも会っていないし、保育園の送り迎えもマスクをして、2mほどの距離をとって屋外で行っている。一緒に生活する家族の感染の有無が今一番気になる点だが、臨機応変に対策と対処を考えて、このコロナ期を戦い、元気にみんなで復活しようと思う。どうぞ皆様も気を付けて。

福祉社会の試金石としての新型コロナウィルス

デンマークでは、2020年3月11日夜に世界が一変した。2月27日に国内初の感染者が出てからも、初期のメディアの反応は危機感を持ったものではなく、一般生活者の間での緊張感はそれほどなかった。ところが、実態としては感染者数は増加の一途をたどっており、政府内での緊急対応の必要性は着々と進められていた。3月11日水曜日の夜にフレデリクセン首相が、翌週月曜日から国内の学校や保育園をまずは2週間にわたって一斉閉鎖することを発表した。同時に、病院や高齢者施設への訪問が厳しく制限された。このころの感染者は676名(3月12日17時)である。

そこからの展開は目が回るように速かった。3月13日には国会議員の全員の起立によっての特別措置法が成立し、緊急性が認められるとして感染が疑われる人に対して強制的な措置をとることが可能となった。また、翌14日正午から4月13日まですべてのデンマーク国境の封鎖が決定され、デンマーク国籍を持つ人を除いては、必要性のない入国を禁じると同時に、デンマーク外務省も歴史上初めて、世界中のすべての国に対しての渡航自粛を呼びかけた。

これにより飛行機は運航しなくなり、各航空会社はフライトの中止と従業員の自宅待機を余儀なくされている。さらに18日10時から30日までは屋内屋外を問わず10人以上の集まりが禁止され、またショッピングモールやテイクアウトを除く飲食店の営業も中止されている。

3月23日には、再度学校や保育園の閉鎖、現在の10人以上の集まりの禁止といった厳しい制限がイースター休暇明けの4月13日まで実施されることが発表された。デンマークでは、イースター明けの翌週に感染のピークを迎え、そこから収束に向かうと見られている。

しかし、この記事で扱いたいのは危機的状況や政策的な行動制限についてではなく、社会・経済的なコストの負担を福祉社会がどのように乗り越えようと努力しているかという側面である。日頃から労働法制や労働者の権利に強い関心を寄せている私にとっては、今回の危機で社会が麻痺することによって発生する莫大な経済的・社会的損失を、国がどのように保障し、雇用や人々の生活を支えるかは極めて興味深い。目に見えないウィルスが、各国の政治体制の在り方や資本主義社会の仕組みを抜本から揺るがしている現状で、世界中の国が知恵を絞り、人々と社会を救っていこうとの取り組みを記録することに意味を感じる。そこで、私にできる貢献として、福祉社会の一つであるデンマークで、どのような経済支援策を取り、どのように舵取りを進めていくのかを記し、今後も追っていきたい。

3月24日現在、デンマーク政府はすでに13の経済支援策を実施しており、予算規模としては2866億クローネを確保している。

  • 助成金として

自営業者及びフリーランスに向けた一時補償金 100億クローネ

企業の固定費の一時補償 400億クローネ

失業保険、疾病失業保険 2億クローネ

一時給与補償制度 38億クローネ

使用者に対する疾病休業保険の還付 17億クローネ

仕事の割り振りに関しての法令の予告プールとお役所仕事の解消 1億クローネ

新型コロナウィルスによる3月中の大規模イベントの中止への補償制度 1億クローネ

  • 保障等として

中小企業、および大企業への保障 (貸付の大きさ) 607億3000万クローネ

旅行保証財団 15億4000万クローネ

EKF(流動性の保証)13億クローネ

スカンジナビア航空へのデンマークからの保障 10億クローネ

  • その他の流動性と融資の可能性として

生徒と学生に対する貸し付け基準の緩和 15億6000万クローネ

付加価値税や被雇用者の納税期限の延長 1650億クローネ

計 2867億クローネ

前述の通り、学校や保育園が2週間閉鎖されることが決まった際には、その旨の発表の際に、「有給のまま」と明確にされている。保育士も教員も月給を保障されたまま、 子どもがいる場合は自らの子どもを見ながら自宅で待機、教員は通信環境を使って授業をするといった対応がされているようだ。現在はただ自宅待機を余儀なくされている職種の人々も、給与を受けていることから、今後は必要に応じて、人が足りなくなれば高齢者施設の清掃をしたり、本来の職と違う仕事に従事することも要請される可能性があることが労働組合とも合意されている。

『世界が一変』してすぐの3月15日にはすでに、政労使の三者協議が行われ、異例の速さで相互に共感的な合意を見た。コロナウィルスの影響による経営悪化している企業のうち、従業員の3割以上に解雇を言い渡すか、50人以上の従業員を要するところに適用される。労働者の解雇を防ぐため、来る3か月間(3月9日から6月9日)、給与を国が75%(最大23,000DKK、約36万円)、使用者が25%補償することとなった。 その代わりに労働者は、有給休暇を5日分返上する。 これによって、例えば仕事に従事できない航空会社の職員やホテルの従業員なども今不要だからと解雇するのではなく、給与をもらいながら「待機」状態を保て、また彼らの必要性が出てきたときに職場に復帰できるようにするという意図である。時給で働く労働者の場合には、国が90% (最大26,000DKK、約41万円)を補償する。予算の規模は、26億DKK(約413億円)と莫大である。

それからすぐに、今度は自営業者に向けた支援策を発表した。美容院やマッサージ店などの営業が禁止され、顧客が来ないにもかかわらず、家賃やリースなどの固定費がかかる場合に、その固定費を国が肩代わりする。また営業禁止はされていないものの、売り上げが40%以上落ち込んでいる企業(ホテルなど)には25-80%の固定費を国が補償する。この予算規模は3月9日から6月9日までの3ヶ月で、600億クローネの予算がつけられている。

上記のように、従業員を雇用したままま、国の給与補償を受けて自宅待機させることができるように三者合意がされたが、実際にはそれでも解雇は行われているようである。たった25%とはいえ、この先の見えない逼迫した経営状況の中で負担するのは使用者側の負担が重く、給与負担をしないまま自宅待機にさせているという記事が各所で見られている(DR)。給与の出ないまま自宅に送られた労働者は失業者として自治体に登録し、生活保護や失業手当を受ける手続きをする必要がある(生活保護は資力調査の基準、失業手当は一定期間の雇用保険加入が求められる)。ブルーカラー労働者の労働組合3Fはデンマーク最大の労働組合だが、コロナウィルスの影響を受けて失業している組合員に対し、3か月間にわたり月額465クローネの共済費を払わなくてよいと決定している。月額1100万クローネの減収となるが、苦境を共に乗り切ろうという気概だろう。

失業保険の給付を受けている失業者も、3月9日から6月9日までは受給期間に換算にせず、受給することができる(つまり、実質上3か月間の受給上限の延長)と同時に、アクティベーション等の受給要件も一時停止されている。 この危機が始まって以来、たったの10日間で無給で自宅待機させられる者が25831人でており、昨年の同時期と比較すると16000人ほど増加している。 すでに23日には5908人が新規失業者として登録しており、昨年の同週(第13週)と比較すると4倍の失業者数となっている。

益々危機感を増していくであろう保健の状況とともに、経済や社会がどう変遷していくのか、そしてこの挑戦に対して(社会民主党政権の)福祉社会はどのように対応していくのかを注視していきたい。

デンマークのシングル女性・同性カップルの妊娠・子育て

Netdoktorという信頼できるサイトから、デンマークの選択的シングルマザーに関する興味深い文章を抄訳する(原文は、ローネ・シュミット教授:医学博士による)。

デンマークで、パートナーのいない女性が不妊治療を受け、ドナー精子との人工授精によって選択的シングルマザーとなることが許されたのは2007年のことである。デンマークで不妊治療を受ける女性全体の15%がシングルであり、クリニックでの不妊治療の末に生まれる子どもの12%ほどが選択的シングルマザーの子どもとなっている(外国から不妊治療を受けに来る人は除く)。

デンマークの不妊治療を受けるシングルの女性を対象とした調査によると、不妊治療を始める際の女性の年齢は平均36歳であり、そのうち83%にもなる女性が一緒に子どもを作りたいと思えようなる新しいパートナーを探すには、十分な時間が残っていないと感じている。そして、事前に十分な熟慮をし、家族や友人との協力の可能性を探ったうえで、子どもを産むという決断に及んでいる。自分の兄弟や親、親しい友人男性といった何らかの形で、成人の男性が子どもの生育に関わるようにしているケースも多いこともわかっている。

デンマークでは、匿名のドナーとオープンドナーといわれるプロフィールを明らかにしたうえでのドナーが選択できるようになっている。匿名のドナーの場合には、瞳の色、髪の色、身長、体重、肌の色という情報だけから選択する。場合によっては拡張プロフィールによって、ドナーの子ども時代、家族構成、職業等を知ることもできるが、どこの誰かということはわからない。オープンドナーの場合には、子どもが18歳になった時点で希望すれば、父親がどこの誰なのかを知ることができるとされている。精子バンクを利用する以外にも、知り合いの精子提供を受けて人工授精を受けることも可能である。

イギリスでは、シングルの女性に対する不妊治療はずっと許されてきた。そのため、(ドナーの父を持ち)選択的シングルマザーの下に育った子どもと、二人の親の下で育った子どもを比較する調査研究などの蓄積もある。それによると、選択的シングルマザーと両親がそろった子どもで、親としての質に有意な差は認められなかった。加えて、母子の葛藤に関していえば、両親揃った場合よりも選択的シングルマザーのほうが稀であることが分かっている

選択的シングルマザーの下に生まれた子どもは、早いうちに自分がどうやって授かったのかについて伝えられることが多いが、実際、大きくなるまでこの事実を告げられないと生育によくない効果があることがわかっている。別の調査でも、成人する前にこの事実を知らされたことで、自分が愛され、望まれて生まれてきたのだと感じられることが多いとされている。

ドナーの父を持つ7歳から13歳までの子どもに対して行った調査では、母親とより緊密な関係を築けている子どもほど、ドナーに対してもより好感的なイメージを持っていることが分かっている。半数程度がドナーを他人と感じているのに対し、それ以外は生物学的な父親と感じていたり、ドナーをどう感じていいかに関して白黒つかない感情を持っている。

*******引用終わり*****

パートナーと不妊治療に励んでいたデンマーク人の友人は、結局彼と別れてしまった。40歳になり、子どもが欲しいという夢と葛藤を続けていたが、先日、「今、ホモセクシャルの男性と約束をしたところで、妊娠を試みているところだ」、と話してくれた。彼女にとっては、まったく知らないドナーが父親であるのと異なり、同様に子どもが欲しいと望むホモセクシャルの男性との助け合い子育ては納得できる選択肢のようだ。

また別の文脈でも先日、16カ月の子どもを持つホモセクシャルのカップルにも出会った。レズビアンのカップルと約束を結んでおり、母親の違う子どもが二人いるという。こうした同性カップル間で約束を結んで子育てをしている家族はレインボーファミリー、子どもをレインボーチャイルドと呼ばれる。共同親権ではない日本では、こうした子育てはできないだろうが、将来的には十分に意味のある選択肢となっていくだろう。与えられる選択肢は、広げていくことで将来を築かならなければならない。選択的シングルマザーは、こうした可能性を広げていくうえで、今の日本でもできる少子化対策の第一歩だと考える。

コペンハーゲンの家賃でお悩みの方は、知っておくべき権利

住宅難のコペンハーゲンでは、日本からやってくる若者のみならず、それなりの人脈ネットワークを持つデンマーク人にとっても、アパートを探すのは非常に困難だ。外国人としてやってきて、何とか自分の力で住まいを探そうとするものの騙されたり、高額の家賃を吹っ掛けられながら、仕方なく払っているようなケースも多いだろう。これまでもコペンハーゲン等の大都市での住宅難については触れてきたが、若者の進学指向や住宅価格が高騰し続けていることなどもあり、都市部での住宅探しは変わらず困難である。

賃貸住宅のサイトなどをオンラインで探すほか、地元の新聞に広告を出したり、図書館にチラシを貼ったり、口コミを頼るなど、手を尽くして何とか住まいを見つけている人も多い。そうなると、こうした状況に乗じて、到底、広さや条件と見合わない家賃を吹っ掛けて、一儲けしようという人たちも出てくる。しかし、デンマークには、個人間の住宅の賃貸に関しても明確なルールがあり、需要があるならと勝手に上げ続けることはできない。

まず、アパートを借りるうえで忘れてはならないのが、必ず賃貸契約書を結ぶこと。デンマーク語のひな型はネット上でも手に入る一般的なものだが、公式ではないようだが英語訳もネット上で手に入る(信頼できそうなところからのリンクを貼った)。これらに明記された条件に納得したうえで署名をしないと、退去時に保証金が返ってこなかったりというトラブルにもつながるので、忘れないようにしたい。

どう考えても高すぎる賃料を払っているという考えられる場合には、各自治体の賃料審査会に不服申し立てをすることができる。審査会は、その地域での同種の住宅と比較して妥当と思われる金額を割り出し、払い過ぎがあった場合には過払い分を返却する命令を出す。私自身は借主でも貸主でもないが、ひょんなことからこのケースに関係者としてかかわることになり、やり取りを逐一観察する機会に恵まれた。デンマークに住む日本人の中で、不本意にも過払いをしているケースも多いと思われるので、参考までにケースを記したい。


【ケース】 東欧人の若者が借りた41m2の家具付きアパート。こちらでいうところの「1部屋のアパート」であり、大きな居室にトイレ・シャワー、キッチンがついている独立した住居。ベッドやソファ、テレビといった家具付きではあったものの、特別贅沢な作りだったり、貸すために新しい家具を入れたわけでもない。月額12.500DKK(20万円超)の家賃を1年間払い続けた。

ペンは剣よりも強し。弁の立つものは勝算も大きい。自分の力で不服申し立てをして戦うことができない人に代わって、係争を進めてくれるところがある。法学を学んだ若い学生たちが立ち上げたベンチャー企業で、大きく成長している。委任状にサインすると、作業を進めてくれて、成功報酬は過払いとして返却された金額の30%。非常に明快だ。敗訴すれば、報酬はゼロだが、敗訴したケースはこれまでにないという!(95%以上と書いてある)

賃料審査会とのやり取りは、公正に行うため、関連パートにメールにて意見聴取という形で行われる。「こういう陳情があるが、事実と異なる点や強調したいことなどがあれば何でも申し立てよ」、と貸主に連絡が行くところから始まり、それを受けた貸主が、この家賃がいかに正当なものかという弁明をしたためたメールを審査委員会に送る。その写しがそのまま訴人(上記代理人)にも送られ、さらにそれに対する異論が審査会にメールされ…という具合に、お互いに言うことがなくなるまで繰り返される。

借主の代理人は、弁論などで鍛えたのであろうか、こういえばああいうという貸主(これも法学を修めた若者だった)に実に理路整然と、正々堂々と議論をし、第三者としてメールのやりとりを見ていても心が晴れやかになるようだった。そして、このメールでの議論が済んでまもなく、審査会から4人(審査会会長、自治体の貸主代表、自治体の借主代表、審査会秘書)は当該アパートの査察に訪れる。貸主や借主など、ステークホルダーは皆査察に同席することができる。今回のケースでは、貸主だけが現れ、審査委員会に対して当時の写真を見せたり、最後の訴えをしようとしていた。とはいえ、たった一部屋のアパート。10分ほどで査察は済んだ。

そして、翌日。調査報告書と結論、そしてその根拠となった法令文がステークホルダー全員に送られた。周辺地域の住宅とアパートの状況に照らし、今回のケースで妥当な家賃は月額4.100DKK(6万6000円ほど)也。適正価格の3倍も請求していたと明快に糾弾し、過払い分に利息をつけて返却すべし、とされた。ぐうの音も出ない。

鮮やかな勝利に思わず、借主代理人におめでとうと連絡したくなった(笑)が、彼らは慣れたものなのだろう。およそ100.000DKKの過払いで、成功報酬30.000DKKが彼らの下へいくはずだ。彼らのしたことは、代理人としてメールで賃料の妥当性を疑う弁論を展開しただけだ。しかし、正義の鉄槌が下り、しっかりと声なき人たちが不当に搾取されるのを防いだ。借主が委任状にサインした日付からわずか5カ月ほどで終結している。

もしもあなたが、コペンハーゲンで(不当に)高い家賃に悩まされている場合には、訴えるための条件等を確認したうえで、同社にコンタクトとしてみるのもよいだろう。英語でも可能だ。(賃借の状況を伝える段階でコミュニケーションに不安のある人は、当方に連絡をくださればMadogucciが代行のお手伝いします)

非婚シングルマザーの権利

この1月から、デンマークの文化・教会大臣としてジョイ・モーンセン(Joy Mogensen)が職に復帰した。それまで務めていた ロスキレ市の市長職から、昨年6月に社会民主党内閣が組閣された際に、同大臣として抜擢された39歳の若い女性である。彼女は匿名ドナーからの精子提供を受けて女児を妊娠をしていることを公表しており、選択的シングルマザー(通称、ソロ・マザー)として2019年10月に出産する予定になっていた。8月には新聞に「市長職であれば9か月育児休暇を取る予定だったが大臣職となったため、なるべく早く復職する予定」と語っている

ところが、出産予定日より少し早い10月5日になって、胎児の死亡が確認されたため、死産をした。それを受けて、直ちにフレデリクセン首相は、モーンセン大臣が無期限で哀悼休暇に入ることを宣言、モーンセン大臣は3ヶ月の休暇を経て、この1月から復職した経緯である。(なお、この哀悼休暇は子どもを死産した場合、あるいは出産後32週以内に子どもが亡くなった場合に、母親にも父親にも適用される権利で、14週間、通常の育児休暇と同じ給与補償がある)

こうした法令を見る際につくづく実感されるのは、デンマークでは通常想定される母親、父親像だけではなく、LGBTなどにも配慮した権利が明記されていることである。上記の哀悼休暇の説明文にも、「死産した子どもの母親である場合、」と始まり、「亡くなった子どもの父親、共同母親の場合にもこの休暇を取る権利がある(強調は筆者)」と明記されている。女性同士のカップルで直接妊娠していなかったほうの女性へも同等の権利があることがわかる。また、モーンセン大臣の件でも明らかなように、ソロ・マザーであっても当然、このケースに該当する。

折しも、日本では先月に 「寡婦(寡夫)控除」の適用拡大が決定され、ようやく未婚のひとり親に対しても、同等の権利が与えられる方向に動き出したところだ。個人を単位としておらず、戸籍のような家族単位を使うために、結婚しているかいないかといった基準で区別・差別をしてきたことは、極めて不自由で非合理だと思う。 2019年の日本での出生数は 86万4000人にまで落ち込んだ。若者が子どもを産みたいと思う気持ちをもったら喜び、どんな形であっても生まれてきた子どもを親とともに社会全体で大切にしていくことを、しっかりと示していく環境があってほしい。望まれて生まれてくる子どもは、非婚の子どもであっても、同様に大切な命で社会の宝である。私は非婚シングルマザーを応援し、これが日本にとっても少子化に向き合うための一つの重要なキーになると確信している。

選択的シングルマザーになることを検討されている強い女性、デンマークから応援します。実際に子どもが生まれてからの選択的シングルマザーの生き方についての蓄積もデンマーク国内では多く紹介されていますが、まずは妊娠までの積極的なお手伝いを考えています。デンマークで人工授精したいとお考えの方、右上の「選択的シングルマザー」の項をお読みのうえ、ぜひご連絡ください。

デンマークから見た世界の潮流・気候へ配慮した食

2019年3月に山川出版から刊行された『気候変動の時代を生きる―持続可能な未来へ導く教育フロンティア』(永田佳之編著)に寄稿させていただいた。若い読者のためのガイドということで、読みやすく書かれたもので、他章も興味深い実践を紹介しているので、デンマークに興味のない方もお読みいただきたい。出版元のほうから許可をいただいたうえで、拙稿の部分のみご紹介する(校正前のものなので、本著とは一部異なる表記もある)。

メディアや学校・職場といった日常の場面で、日本では気候変動についての話題が少ない印象を受けます。豪雨被害や大規模地震を経験した2018年、ヨーロッパも例になく長い干ばつに見舞われ、アメリカでは大規模な森林火災が続く…と世界各地が異常気象に見舞われています。この自然災害を経験して、被害者の支援が求められるのはもちろんのことですが、それ以上に大切となるのは、今後の発災を減らしていくための努力ではないでしょうか。天災は人知の及ばないもの、という諦観ではなく、人間が引き起こした気候変動によってもたらされた結果という意識を持ち、一人一人が将来のために行動を起こすべきところにやってきています。

世界銀行の二酸化炭素情報分析センターによる統計データ(2014年)では、人口一人当たりの年間二酸化炭素の排出量が世界一多いのは、カタール(45.42トン)であり、パリ協定の離脱からよく取りざたされるアメリカは第9位(16.42トン)、日本は21位(9.54トン)、デンマークは46位(5.94トン)とされています。デンマークの二酸化炭素排出は際立ってひどいわけでもありませんが、これをさらに減少させる努力が産業界から個人レベルでまで実践されており、国を挙げて気候変動への対策に取り組んでいます。気候変動関連への対策には自動車関連の取り組みが大きい割合を占めますが、本稿ではまだ日本では見逃されがちな、食に関しての取り組みをご紹介しましょう。

2018年10月に政府から出された、「もっと緑の将来をともに作るために 気候と大気のための動き」では38の取り組みがあげられており、その一つに、生産者と協力して食品への「気候マーク」の表示を推奨することが提言されています。採用実現までは克服しなければならない問題は数多いものの、忙しい毎日の中でも消費者の気候への態度と購買行動に働きかけるように、政府としても取り組む姿勢を見せていることは注目されます。

ひとりひとりの日常の食事は、私たちが感じている以上に気候に負担をかけています。ひとが食生活を通じて排出する二酸化炭素の量は、デンマークでは生活全体で排出する二酸化炭素量の約20%を占め、電気や暖房、ガソリンといったエネルギーを合わせたよりも大きな割合を占めることが指摘されています(Concito 2016)。そのため、一人一人が気候に配慮した食事(デンマーク語: Klimavenlig mad/klimamad, 英語: Climate-friendly food/climate food)へと生活を変えることで、二酸化炭素の排出を抑えることができると推奨されています。

コペンハーゲンで4家族を対象として、気候へ配慮したアドバイスを毎日の食事に取り入れる実験を行ったところ、これまで言われていたようなエコ電球や自動車の代わりに自転車を使う、シャワーの時間を短くする、等の実践よりも二酸化炭素量の削減につながったことがわかりました。その削減量は、1家族で1年間合計すると、自動車で21,000㎞走行分(地球半周分)に相当しました(Økolariet)。これらの家族が実践した6つのアドバイスは以下のものです。

  1. 肉 牛肉は二酸化炭素の排出量が非常に多く、気候に大きな負担をかけます。一方、鶏肉は牛肉の負荷の4分の1です。鶏肉と魚を主に食べ、牛肉や豚肉を食べる頻度を減らすようにしましょう。
  2. 野菜 野菜はなかでも環境への負荷が小さいため、積極的に摂るようにしましょう。なかでも、生産にエネルギーを要する温室栽培のものではなく、屋外の畑でとれるその季節の野菜が望ましいです。
  3. 米・ジャガイモ・パスタ 米はジャガイモの12倍、パスタの4倍、気候に負荷をかけます。米よりも、屋外の畑で育ったジャガイモを積極的に選ぶようにしましょう。
  4. 水 ボトルに入った水(ミネラルウォーター)は、ボトリングや輸送が影響するため、水道水の35倍、気候への負荷をかけます。積極的に水道水を飲むようにしましょう(デンマークの水道水は、硬度が高い地下水であり、安全に飲むことができます)。
  5. 食品ロス 食べる分だけ調理し、無駄をなくすようにしましょう。もしも作りすぎたら、残りものを使いまわすようにしましょう。
  6. 地元産のものを 輸送にかかる負荷を減らすため、地元産の野菜や果物を選ぶようにしましょう。(肉に関しては、生産過程での温室効果ガスが大きいため、輸送は大きな問題ではなく、地元産にこだわる必要性はあまりありません)

このように、「気候に配慮した食」とは、生産や調理の過程で二酸化炭素の排出量が少ない食事です。隣にある輸入トマトが彩として良くても、地元でとれたキャベツを選ぶ。そういう毅然とした姿勢なのです。土地や季節を選ばず、何でも世界中から届くようになった今、食生活は限りなく豊かになりました。しかし、食に関して日本のメディアで目にするのは、グルメレポート、あるいは逆にダイエット、嵩増し節約料理、時短料理といったものばかりです。遠くから通販でのグルメお取り寄せや、ダイエットのために穀類を残す(つまり、捨てる)ことを推奨する様子は、気候への配慮は皆無に見えます。カロリーベースで38%(農林水産省2017年)とされる日本の食物自給率は、ただ輸入に頼っているからだけではなく、「輸入食品を欲する私たちがいるから」なのではないでしょうか。食への態度を気候に配慮したものにして食に対する姿勢を変えれば、自給率も自然と上がっていくように考えられます。

デンマークで注目される食は、特別おいしいことでもダイエットのためにカロリーが低いことでもなく、安全なオーガニックの食品や、動物の福祉に配慮した肉・卵類、そして輸送による二酸化炭素の排出を抑えた、その季節の国産の野菜や果物です。あらゆる食品でオーガニックのものが手に入るようになりましたが、それだけ妄信するのでなく、「冬に国産のオーガニックトマト(温室栽培のため生産過程において、非常に多くのエネルギーを要する)を買うよりは、輸送コスト(価格というよりも、二酸化炭素排出量)を含めてもスペインから輸入したトマトを買うほうが良い」と知らせる理性も大切です。

地元で手に入る季節に合った食材を使ったり、食物ロスを防ぐことで、自然と節約にもつながります。加工食品を生産・消費し、物流を使いながら何でも手に入れることが経済循環だという頭でいると、増え続ける世界の人口に新たなたんぱく源を確保することや、現在の食品ロスを減らす努力に模索している世界の潮流には、完全に取り残されます。2017年秋に放映されたNHKスペシャルの「激変する世界ビジネス”脱炭素革命”の衝撃」は、ヨーロッパで暮らす者ならばよくわかる日本の認識ギャップを表しています。

2018年に入ってから、100%植物ベースで作られた、ひき「肉」がスーパーマーケットに出てきましたが、当時はメディアでも市場でも大反響でした。天然食品添加物を除いた主原料は、大豆たんぱく、ココナッツオイル、大豆粉、小麦グルテン、アーモンド、カールヨハン(きのこ)、トマト、発酵グルコース、タピオカスターチ、塩、モルトエキスです。こうした市場は拡大してきており、植物ベースの卵やチーズも、販売され始めています。これはベジタリアンに対する配慮というだけではなく、気候へ負担を減らす運動の一つであるとみることができます。

国連によると、2050年には地球上の人口は97億人になると見込まれ、国連食糧計画はそのために少なくとも現在の1.6倍の食物生産が求められるとしています。しかし現在の食糧生産のやり方では生産量に限りがあるうえ、気候への負荷が大きく、これは難しくなっています。そこで持続可能な食糧源として、たんぱく源や栄養素の豊富な昆虫や海藻といったものが視野に入れられるようになってきました。広い面積の「栽培地」を必要とせず、数が十分にあるこれらの食物を、どのように人々に受容させるかというのが、気候変動と食に関連したキャンペーンではたびたび取り上げられています。もう一つの改善策は、生産される食べ物の3分の1以上が、結局人々の口に入らないままに処分されている事実、いわゆる食品ロスの改善です。閉店後のスーパーマーケットのコンテナなどで消費期限切れの食品を探しに行く様を表した、ダンプスター・ダイビングというアメリカの表現はデンマークでも使われるようになってきました。食物ロスを減らすためのアプリも開発され始めています。たとえば、レストランやカフェで事情により料理が余ってしまった場合に、アプリを使ってお知らせすることで、ごく少額の支払いでテイクアウト料理として引き取ることができます。大手スーパーマーケットチェーンがフードバンクと協力して開発したアプリ、“Mad skal spises(「食べ物は食べられないと」)”は、地元のパン屋などの食品店やスーパーマーケットで、どこに何が余っているかを一括で概観できるようにしたもので、国際的に知られたSAPイノヴェーション賞を2018年に受賞しています。

気候に配慮した食事というと、そのまま二酸化炭素の排出量だけを考えがちですが、それだけでは持続可能な食とはなりません。国連食糧農業機関(FAO)が出している「持続可能な食(sustainable food)」は以下の4つの基準を満たす必要があるとされています(Merete Myrup  Bæredygtig mad handler om mere end klima og CO2-aftryk)。 1. 栄養学的に適切で、安全で体にいいこと(動物性の食品がより環境に負担をかけるというのは紛れもない事実ですが、植物だけで補えない栄養素もあります) 2.環境を守り、敬意を示すものであること(二酸化炭素だけではなく、生産に関わる農地面積や水の使用量も考慮にいれる必要があります) 3.文化的に受け入れられること 4.安価であり誰にでも手に入れられるものであること。この著者はフランスの研究を引いて、食品が上記の基準を満たし持続可能である場合、二酸化炭素量の排出はこれまでのものから30パーセント以上抑えることはで不可能だと結論をもって、気候に配慮するだけではなく、牛乳や乳製品を適度にとることが栄養学的にも望ましい、と結論付けています。

食物生産のなかでも、とくに牛、羊の生産が温室効果ガスの排出に大きな割合を占めるため、デンマークではすでに10年ほどメディアや環境団体が牛肉・羊肉の購入・摂取を控えるように呼びかけています。食の西欧化が進む中国では、中産階級が肉をたくさん消費するようになったことで、二酸化炭素排出量の増加していることが問題視され始めています。これを危惧する中国栄養学会は2016年、俳優のシュワルツェネッガーやジェームズ・キャメロン監督を前面に出し、中国人に肉の消費を現在の約半分の年間27キロ程度に抑えるよう呼びかけるキャンペーンを行いました。中国は、すでに食を通じた二酸化炭素排出量の抑制を意識しているのです。

日本にはハチの幼虫やイナゴを食べる地方があり、また多種の海藻類は長い歴史の中で様々な形で食べられています。まさに、これからの多様なたんぱく源を考えるうえでの先駆けであるともいえます。それに加え、大根の皮、シイタケの軸やブロッコリーの芯を「もったいない」と料理に使う、「おばあちゃんの知恵」の伝統を備えてもいます。ここに立ち返れば、日本には将来の世界の気候に配慮した食づくりを指導していくポテンシャルがあるように思われます。世界に尊敬される実践は私たちの歴史の中にあり、環境のためにという毅然とした選択が自然災害をも防ぎうるカギを握っているのではないでしょうか。

開業しました

お蔭様で、2017年秋にMadogucciを開業することができました。アイディアを温め始めて、早幾年…。紆余曲折はあったものの、これまでに築いてきたネットワークに助けられる形で、比較的スムーズなスタートとなりました。デンマークにご関心を寄せる皆さまの「窓口」として、3C(コミュニケーション、コンタクト、文化)を仲介するお手伝いをします。

ホームページの立ち上げまでしばらくかかりましたが、こちらでは以前のようにデンマークのうちがわを紹介することができたらと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。