上がり続ける物価上昇へのデンマークでの対応策

先日、2022年3月のアメリカの消費者物価指数が前年同月比で8.5%上昇し、この上昇率は1981年12月以来、というニュースがあった。大変な数字だ。デンマークでも例にもれず、同じ2022年3月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比で5.4%であった。日本はまだ2月のものしか公開されていないが、総務省の発表によると同基準の前年同月比で0.9%とされているようだ。上昇はしているものの、驚きの小さな数字だ。それでも、日本でも物価上昇にどう耐えていくかという報道もされているくらいだから、消費者の実感としてはどこも同じく厳しいものなのだろう。

デンマークでは、天然ガス(18.8%)や原油、電力といったエネルギー価格の上昇に加えて、食品(6.8%)も価格上昇が著しい。例を取ってガソリン価格を見ると、年始からそもそも上昇に向かっていた価格がロシアのウクライナ侵攻の影響を受けて、さらなる上昇に向かったことが見て取れる。下図で、右側のピンク色のところがウクライナ侵攻後であり、その動きの著しさは目を見張るほどだ。

こうした価格上昇を受けて、デンマークの消費者もこれまではあまり真剣に考えてこなかった暖房源や通勤手段といった月々の出費に気を配るようになったようだ。もっとも値上がりした天然ガスによって暖房や温水を供給している家庭の場合には、これまでなら15分間浴びていたシャワーを5分で済ますようにするだけで、1年間に10万円近くの節約になるという。また、室内の設定温度も1度下げるだけで約5%の削減になり、例えば25度の設定を23度に下げるだけで、たちまち年間3万円ほどの節約につながる。この「1度下げて5%削減」の原則は日本も同じようで、エアコンの場合にはかなりの電気代が節約できるようだ。(日本の環境省は、冬場は20度の設定を推奨しているようだが、室内はいつでも温かいデンマークからすると20度というのは寒い気がする)

この記事を書いた理由は、こうした個々人での節約術を紹介するためではない。こうした(国内だけでは対処できない世界での経済や政治状況を受けての物価上昇に、デンマークの政治家がどのように対応を見据え、政策を打って出るのかを紹介したいと思ったためだ。

まずは、急騰するエネルギー価格によって、2021年2022年に暖房費の支出が急拡大してしまった家庭への緊急支援として、デンマーク政府は2022年3月30日に、特別の暖房小切手を出すことを決定した。最初に検討されていた給付額よりも増額されたおよそ6000クローネで合意され、所得制限も当初の予定よりも相当引き上げられ、年収650.000クローネを超える場合に限るとなった。1.ガス暖房、あるいは65%以上をガスを利用する地域暖房、2.同じ値上がりをしている熱ポンプとガスの混合型の暖房、そして3.同等の値上がりをしている電気のラジエーターと熱ポンプを主な暖房源としている場合、に該当していれば、自動的に給付がされることになっており、20億クローネの予算を見込んでいる。まだ登録されたデータから該当家庭を見つけ出すシステムが構築されていないため、給付は8月か9月になると見込まれている。今、緊急に支援が必要という国民はやきもきしているようだが、今回のように一回限りの特別な基準を満たす家庭を緊急に見つけ出すのに時間がかかるのは、ある程度仕方がない部分もある。

以下で紹介するものは、まだ決定したものではなく、まだ各党の提案にすぎない。それでも、「デンマークのような国では、こういうやり方を考えるのか!」という参考になると考えるので、紹介したい。この記事のもととしたデンマーク国営放送DRの記事が、政党ごとの提案の聞き取りに大きな差があるので、丁寧に説明しているところとそうでないところがあるが、その点はご了承願いたい。

SF(社会人民党)は、高齢者と子どものいる家族のために給付金を提案する。高齢者には、4600クローネの特別な高齢者小切手、子どものいる家族には「緑の小切手」を額を引き上げて、1500クローネを非課税で受けられるようにする。(デンマークの「小切手:チェック」という表現は、課税されない給付の場合に使われる)

注)「緑の小切手」とは… 生産者が環境に配慮したことで様々な物・事の価格が消費者の支払う価格に転嫁されたが、年金生活者や所得の少ない人にとっては逆進性により負担が重くなる。そのため、年金生活者や所得の少ない層に対し、増額された分を補う「小切手」が出されるようになった。年金生活者で、2022年で年間875クローネ、その他の18歳以上の成人は年間525クローネとなっている。なお、年間の所得が429.200クローネを超える場合に、最高税率を課されている分の7.5%を減額される。年収が250.800クローネに満たない場合には、さらに280クローネ、子どもがいる場合には2人を上限として60クローネが加算される。

そのほかにも、SF(社会人民党は)奨学金SUを受給している学生に対して、課税前で2000クローネの特別給付を出すほか、他の困難を抱えるグループに対する様々な支援金として、9億クローナの予算をつけ、全体では30億クローネを見込む。

Venstre(自由党)は電力税を引き下げ、勤労控除を引き上げ、政府のものより多くの家庭への暖房費支援を8月より早く手元に届けられるようにすることを提案している。

DF(デンマーク国民党)は、交通費控除を引き上げるとともに数々の税金を減らし、勤労控除を引き上げることを提唱する。

Enhedslisten(統一リスト党)は短期策と長期策を持って臨むべきと考えており、短期的にはSF(社会人民党)の案がまずは現実的で、長期的にはすべての福祉給付の金額を見直し、物価上昇に見合うものにしていくべき、としている。

Konservativ(保守党)とLA(自由同盟)は、所得税を減税することを提案する。所得税を減税することで使用者はこれまでと同じ給与支払いでより多くの労働者を獲得でき、人件費の支払いを大きくすることなく国内のインフレを抑えることができる、とする。社会民主党や統一リスト党の提案する一度きりの給付金はいい案ではないとし、たくさん税金で取っておいてそれからあれこれ給付をするのではなく、最初から税金をそんなにとらなければいいのだ、と主張する。

与党の社会民主党は、ここでは具体策は提示しないが、さらなる案を検討しているとだけ回答している。

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ロシアからへの制裁と関連して天然ガスの国内供給が厳しいことを受けて、今日、2030年にはデンマークは天然ガスなしでやっていくという方針を表明した。環境に配慮した電気、バイオガスなどをより拡大しつつ、2030年には天然ガス完全廃止を目指しつつ、ここ数年は北海油田の天然ガスの生産を拡大する方針で進める。バイオガスや環境に配慮したガスの供給が需要を満たすまでは、プーチンからガスを買う代わりに北海のガスに頼るのは必要な選択だとする。北海油田の原油・ガスの採掘は2050年までに終了することになっているが、この計画には支障はないとされている。

 同時に、太陽光発電や風車を2030年までに4倍に増やし、さらに洋上風力発電やエネルギー島と呼ばれる発電施設を備えた島も充実させ、国内の電力需給を賄うことを目指す。

エネルギー価格の上昇を受けて、短期的に1.(ロシア以外の)代替エネルギー源の獲得、2.それに伴う価格上昇による国民負担を下げる方策、そして長期的には、2.自然エネルギーによる十分な供給、3.エネルギー利用の効率化を進める、といったことの重要性がさらに強く認識されるようになってきたといえる。

    投稿者: Denjapaner

    2002年よりデンマーク在住。とくに教育、福祉、労働のテーマに関心を持つ。ストレスのない生活を目指して、のんびりと生活中。2015年生まれの子の母。

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