デンマークでは、2020年3月11日夜に世界が一変した。2月27日に国内初の感染者が出てからも、初期のメディアの反応は危機感を持ったものではなく、一般生活者の間での緊張感はそれほどなかった。ところが、実態としては感染者数は増加の一途をたどっており、政府内での緊急対応の必要性は着々と進められていた。3月11日水曜日の夜にフレデリクセン首相が、翌週月曜日から国内の学校や保育園をまずは2週間にわたって一斉閉鎖することを発表した。同時に、病院や高齢者施設への訪問が厳しく制限された。このころの感染者は676名(3月12日17時)である。
そこからの展開は目が回るように速かった。3月13日には国会議員の全員の起立によっての特別措置法が成立し、緊急性が認められるとして感染が疑われる人に対して強制的な措置をとることが可能となった。また、翌14日正午から4月13日まですべてのデンマーク国境の封鎖が決定され、デンマーク国籍を持つ人を除いては、必要性のない入国を禁じると同時に、デンマーク外務省も歴史上初めて、世界中のすべての国に対しての渡航自粛を呼びかけた。
これにより飛行機は運航しなくなり、各航空会社はフライトの中止と従業員の自宅待機を余儀なくされている。さらに18日10時から30日までは屋内屋外を問わず10人以上の集まりが禁止され、またショッピングモールやテイクアウトを除く飲食店の営業も中止されている。
3月23日には、再度学校や保育園の閉鎖、現在の10人以上の集まりの禁止といった厳しい制限がイースター休暇明けの4月13日まで実施されることが発表された。デンマークでは、イースター明けの翌週に感染のピークを迎え、そこから収束に向かうと見られている。
しかし、この記事で扱いたいのは危機的状況や政策的な行動制限についてではなく、社会・経済的なコストの負担を福祉社会がどのように乗り越えようと努力しているかという側面である。日頃から労働法制や労働者の権利に強い関心を寄せている私にとっては、今回の危機で社会が麻痺することによって発生する莫大な経済的・社会的損失を、国がどのように保障し、雇用や人々の生活を支えるかは極めて興味深い。目に見えないウィルスが、各国の政治体制の在り方や資本主義社会の仕組みを抜本から揺るがしている現状で、世界中の国が知恵を絞り、人々と社会を救っていこうとの取り組みを記録することに意味を感じる。そこで、私にできる貢献として、福祉社会の一つであるデンマークで、どのような経済支援策を取り、どのように舵取りを進めていくのかを記し、今後も追っていきたい。
3月24日現在、デンマーク政府はすでに13の経済支援策を実施しており、予算規模としては2866億クローネを確保している。
- 助成金として
自営業者及びフリーランスに向けた一時補償金 100億クローネ
企業の固定費の一時補償 400億クローネ
失業保険、疾病失業保険 2億クローネ
一時給与補償制度 38億クローネ
使用者に対する疾病休業保険の還付 17億クローネ
仕事の割り振りに関しての法令の予告プールとお役所仕事の解消 1億クローネ
新型コロナウィルスによる3月中の大規模イベントの中止への補償制度 1億クローネ
- 保障等として
中小企業、および大企業への保障 (貸付の大きさ) 607億3000万クローネ
旅行保証財団 15億4000万クローネ
EKF(流動性の保証)13億クローネ
スカンジナビア航空へのデンマークからの保障 10億クローネ
- その他の流動性と融資の可能性として
生徒と学生に対する貸し付け基準の緩和 15億6000万クローネ
付加価値税や被雇用者の納税期限の延長 1650億クローネ
計 2867億クローネ
前述の通り、学校や保育園が2週間閉鎖されることが決まった際には、その旨の発表の際に、「有給のまま」と明確にされている。保育士も教員も月給を保障されたまま、 子どもがいる場合は自らの子どもを見ながら自宅で待機、教員は通信環境を使って授業をするといった対応がされているようだ。現在はただ自宅待機を余儀なくされている職種の人々も、給与を受けていることから、今後は必要に応じて、人が足りなくなれば高齢者施設の清掃をしたり、本来の職と違う仕事に従事することも要請される可能性があることが労働組合とも合意されている。
『世界が一変』してすぐの3月15日にはすでに、政労使の三者協議が行われ、異例の速さで相互に共感的な合意を見た。コロナウィルスの影響による経営悪化している企業のうち、従業員の3割以上に解雇を言い渡すか、50人以上の従業員を要するところに適用される。労働者の解雇を防ぐため、来る3か月間(3月9日から6月9日)、給与を国が75%(最大23,000DKK、約36万円)、使用者が25%補償することとなった。 その代わりに労働者は、有給休暇を5日分返上する。 これによって、例えば仕事に従事できない航空会社の職員やホテルの従業員なども今不要だからと解雇するのではなく、給与をもらいながら「待機」状態を保て、また彼らの必要性が出てきたときに職場に復帰できるようにするという意図である。時給で働く労働者の場合には、国が90% (最大26,000DKK、約41万円)を補償する。予算の規模は、26億DKK(約413億円)と莫大である。
それからすぐに、今度は自営業者に向けた支援策を発表した。美容院やマッサージ店などの営業が禁止され、顧客が来ないにもかかわらず、家賃やリースなどの固定費がかかる場合に、その固定費を国が肩代わりする。また営業禁止はされていないものの、売り上げが40%以上落ち込んでいる企業(ホテルなど)には25-80%の固定費を国が補償する。この予算規模は3月9日から6月9日までの3ヶ月で、600億クローネの予算がつけられている。
上記のように、従業員を雇用したままま、国の給与補償を受けて自宅待機させることができるように三者合意がされたが、実際にはそれでも解雇は行われているようである。たった25%とはいえ、この先の見えない逼迫した経営状況の中で負担するのは使用者側の負担が重く、給与負担をしないまま自宅待機にさせているという記事が各所で見られている(DR)。給与の出ないまま自宅に送られた労働者は失業者として自治体に登録し、生活保護や失業手当を受ける手続きをする必要がある(生活保護は資力調査の基準、失業手当は一定期間の雇用保険加入が求められる)。ブルーカラー労働者の労働組合3Fはデンマーク最大の労働組合だが、コロナウィルスの影響を受けて失業している組合員に対し、3か月間にわたり月額465クローネの共済費を払わなくてよいと決定している。月額1100万クローネの減収となるが、苦境を共に乗り切ろうという気概だろう。
失業保険の給付を受けている失業者も、3月9日から6月9日までは受給期間に換算にせず、受給することができる(つまり、実質上3か月間の受給上限の延長)と同時に、アクティベーション等の受給要件も一時停止されている。 この危機が始まって以来、たったの10日間で無給で自宅待機させられる者が25831人でており、昨年の同時期と比較すると16000人ほど増加している。 すでに23日には5908人が新規失業者として登録しており、昨年の同週(第13週)と比較すると4倍の失業者数となっている。
益々危機感を増していくであろう保健の状況とともに、経済や社会がどう変遷していくのか、そしてこの挑戦に対して(社会民主党政権の)福祉社会はどのように対応していくのかを注視していきたい。
