コロナ下でのデンマークの雇用状況

コロナが始まって以来のデンマークの雇用状況について尋ねられる機会があり、少し系統だって調べたので、まとめてみたい。

デンマークでロックダウンの判断が下されたのは、忘れもしない2020年3月11日のことだった。数々の営業制限や行動制限が指示され、それによって自宅で待機を余儀なくされる者ややむなく解雇される者も増えた。ロックダウン直後の緊迫した国内の様子や政府の対応については、福祉社会の試金石としてのコロナウィルスで詳述しているので、そちらを参照されたい。

労働市場の「柔軟性」と雇用の「保障」を合わせた「フレキシキュリティー」で知られるデンマークでは、直ちに政労使の三者合意による雇用の保障が行われたが、それと同時に雇用省では柔軟性の証左といえる失業・休業中の教育訓練に力を入れ始めた。つまり、休業補償を出して使用者に対して労働者を解雇させずに自宅待機させる一方で、コロナで傷ついた市場が回復した時を見据えてその時に備えた教育訓練を積極的に実施したのである。

危機に失業者の底上げを 能力向上に投資することがコロナ危機にあるデンマークを強化する』と題された政府の施策では、2020年8月から2021年にかけて9つのイニシアチブをだし、教育訓練に参加中には通常の失業給付の110%に増額するなどの動機付けを行ったり、無資格で働いてきた人を資格取得のための教育に参加させ、その間の業務を失業者が引き受けるといったジョブローテンションを行うといった提案で、特に技能の高くない労働者全体の底上げとなる、教育・訓練を積極的に行うようにした。コロナ前と比べて4万人増加したといわれていた失業者だったが、その多くが若者、低スキルの労働者だったことがこうした施策の背景にある。

2020年のクリスマス年末は非常に大きな制限のかかったものであったが、イギリス変異種の流行が落ち着いた2021年2月末になると、経済が再開される。コロナ下での解雇が広がっていたホテルや飲食業界といったサービス業を中心に、経済再開によって労働力不足が声高に叫ばれるようになり、5月になると早くもコロナ前よりも失業率は下がり、3.8%程度になった。政府による数々の援助パッケージや積極的な金融政策が功を奏したといわれる。たまたま凍結される予定になっていた休暇基金5週間分を、コロナ対応として緊急に引き出せるようにして国内経済を活性化させたことも功を奏して、2020年のGDP成長率は前年比でマイナス3.7%に留まり、他のEU諸国よりも打撃は小さかったことも早い回復の前提となった。

そして、その後もどんどん下がり続けた失業率は、2021年第二四半期にはEU27か国の中でも最も下がり、10月には3.1%になった。雇用大臣のフメルゴー(38歳、男性)は10月9日から8週間の育児休暇に入ったが、休暇直前の話題はもっぱら、どのようにして労働力を確保するかというものだった。育児休暇中の彼の代行として、外国人統合省大臣を務めているテスファイェが兼任することになった。

しかし、そこにオミクロン株がやってきた。世界でオミクロン株の感染の広がりの速さに警戒が叫ばれ始めた時、デンマークにもいち早く感染者が出た。11月28日に最初の感染者を出してから、オミクロン株の感染者はどんどん広がりを見せ、わずか3週間でコロナ感染者全体の3分の1を占めるようになり、12月21日にはオミクロン株が大多数を占めるようになった。これまでマスクもしないで生活ができていた日常は、また去年のような緊張感を取り戻すことになった。あまりにもオミクロン株の広がりが大きいため、20日からは陽性反応後にさらにオミクロンかどうかを調べることをしないという戦略の変更が発表された。これまで、オミクロン株の場合には濃厚接触者もより厳格な隔離措置をとるように指導されていたが、今後は通常のコロナ陽性反応者と同じ対応をとるように指導される。

12月になってコロナの感染者は連日12000人程度となっており(今日12月26日には15000人弱にまで上がり、一日の感染者数は記録を更新した)、感染者・濃厚接触者がこれだけ増えたことで、文化施設の閉鎖を中心としたさらに厳しい制限が導入されたが、このことは同時に経済も停滞しかねない。そこで、クリスマスを目前とした12月10日に政府は再び政労使の三者協議を行い、さらなる補償制度を発表した。

12月1日から2月28日まで少なくとも売り上げが30%減少した企業や個人事業主は、補償を受けることができる。 30%の以上の従業員を自宅待機にさせている企業では、従業員の給料を時給で支払っている場合には90%、ホワイトカラーの場合には3万クローネ(52万円程度)を上限として給与の75%を補償する。強制的に閉業を迫られた業者には、100%の固定費を補償する。クリスマスの時期の週末に長持ちしない食べ物などを売るつもりで用意していたものの、店を開店することができなくなった業者に対しても、廃棄処分の補償として4万クローネが出される。特別な貸し付け措置も2月28日まで延長されることになった。

これだけ重要なことが決められた時期に、雇用大臣が育児休暇を取っているというのは、さすがデンマークと思わざるを得ない(彼が職務に復帰したのは週明けの12月13日からである)。フメルゴーは男女平等省の大臣も兼任しているが、まさに大臣であれ、働く一人の人間で、家族や家庭があり、そこに優先順位を置いてよいのだと示している。こうした措置により、人々は困窮することなく、何とかクリスマスは終わろうとしている。17日に19日からの文化施設の閉鎖が突然発表され、チボリ公園で子どもとクリスマス気分を楽しもうと思っていた人は、急な閉鎖に足元をすくわれた思いだろう。くるみ割り人形を見に行く予定にしていた私たちも、公演中止の連絡にあと1週間早い日付を選んでいれば、と臍を噛んだ。学校は冬休みを前倒しの上さらに延長し(付け加えられた分は「自宅学習」の名目ではあるが)、丸3週間が休みとなっている。

政府としても、労働不足が問題になっているところに雇用者を自宅送りにして給与補償をするという矛盾に、これがコロナの緊急事態における一時的な救済措置であることを願っている。この間政府は、3度目のワクチン接種を根気よく要請し、5歳から11歳の子どもに向けても接種を始めた。ワクチン接種を済ませていない低学年を中心に、学校でも感染が大きく広がった12月は、検査場もどこも予約でいっぱいで大変だった。ようやくオミクロンが収まり、平静を取り戻したころまでデンマークの経済はもっているのだろうか。2月いっぱいを限度にした援助パッケージなどを見ると、政府はこの冬を雌伏の時と見て、春には抜けられると考えているように思える。春に雄飛の時を迎えることができるのか、注視したい。

    投稿者: Denjapaner

    2002年よりデンマーク在住。とくに教育、福祉、労働のテーマに関心を持つ。ストレスのない生活を目指して、のんびりと生活中。2015年生まれの子の母。

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