デンマークから見た世界の潮流・気候へ配慮した食

2019年3月に山川出版から刊行された『気候変動の時代を生きる―持続可能な未来へ導く教育フロンティア』(永田佳之編著)に寄稿させていただいた。若い読者のためのガイドということで、読みやすく書かれたもので、他章も興味深い実践を紹介しているので、デンマークに興味のない方もお読みいただきたい。出版元のほうから許可をいただいたうえで、拙稿の部分のみご紹介する(校正前のものなので、本著とは一部異なる表記もある)。

メディアや学校・職場といった日常の場面で、日本では気候変動についての話題が少ない印象を受けます。豪雨被害や大規模地震を経験した2018年、ヨーロッパも例になく長い干ばつに見舞われ、アメリカでは大規模な森林火災が続く…と世界各地が異常気象に見舞われています。この自然災害を経験して、被害者の支援が求められるのはもちろんのことですが、それ以上に大切となるのは、今後の発災を減らしていくための努力ではないでしょうか。天災は人知の及ばないもの、という諦観ではなく、人間が引き起こした気候変動によってもたらされた結果という意識を持ち、一人一人が将来のために行動を起こすべきところにやってきています。

世界銀行の二酸化炭素情報分析センターによる統計データ(2014年)では、人口一人当たりの年間二酸化炭素の排出量が世界一多いのは、カタール(45.42トン)であり、パリ協定の離脱からよく取りざたされるアメリカは第9位(16.42トン)、日本は21位(9.54トン)、デンマークは46位(5.94トン)とされています。デンマークの二酸化炭素排出は際立ってひどいわけでもありませんが、これをさらに減少させる努力が産業界から個人レベルでまで実践されており、国を挙げて気候変動への対策に取り組んでいます。気候変動関連への対策には自動車関連の取り組みが大きい割合を占めますが、本稿ではまだ日本では見逃されがちな、食に関しての取り組みをご紹介しましょう。

2018年10月に政府から出された、「もっと緑の将来をともに作るために 気候と大気のための動き」では38の取り組みがあげられており、その一つに、生産者と協力して食品への「気候マーク」の表示を推奨することが提言されています。採用実現までは克服しなければならない問題は数多いものの、忙しい毎日の中でも消費者の気候への態度と購買行動に働きかけるように、政府としても取り組む姿勢を見せていることは注目されます。

ひとりひとりの日常の食事は、私たちが感じている以上に気候に負担をかけています。ひとが食生活を通じて排出する二酸化炭素の量は、デンマークでは生活全体で排出する二酸化炭素量の約20%を占め、電気や暖房、ガソリンといったエネルギーを合わせたよりも大きな割合を占めることが指摘されています(Concito 2016)。そのため、一人一人が気候に配慮した食事(デンマーク語: Klimavenlig mad/klimamad, 英語: Climate-friendly food/climate food)へと生活を変えることで、二酸化炭素の排出を抑えることができると推奨されています。

コペンハーゲンで4家族を対象として、気候へ配慮したアドバイスを毎日の食事に取り入れる実験を行ったところ、これまで言われていたようなエコ電球や自動車の代わりに自転車を使う、シャワーの時間を短くする、等の実践よりも二酸化炭素量の削減につながったことがわかりました。その削減量は、1家族で1年間合計すると、自動車で21,000㎞走行分(地球半周分)に相当しました(Økolariet)。これらの家族が実践した6つのアドバイスは以下のものです。

  1. 肉 牛肉は二酸化炭素の排出量が非常に多く、気候に大きな負担をかけます。一方、鶏肉は牛肉の負荷の4分の1です。鶏肉と魚を主に食べ、牛肉や豚肉を食べる頻度を減らすようにしましょう。
  2. 野菜 野菜はなかでも環境への負荷が小さいため、積極的に摂るようにしましょう。なかでも、生産にエネルギーを要する温室栽培のものではなく、屋外の畑でとれるその季節の野菜が望ましいです。
  3. 米・ジャガイモ・パスタ 米はジャガイモの12倍、パスタの4倍、気候に負荷をかけます。米よりも、屋外の畑で育ったジャガイモを積極的に選ぶようにしましょう。
  4. 水 ボトルに入った水(ミネラルウォーター)は、ボトリングや輸送が影響するため、水道水の35倍、気候への負荷をかけます。積極的に水道水を飲むようにしましょう(デンマークの水道水は、硬度が高い地下水であり、安全に飲むことができます)。
  5. 食品ロス 食べる分だけ調理し、無駄をなくすようにしましょう。もしも作りすぎたら、残りものを使いまわすようにしましょう。
  6. 地元産のものを 輸送にかかる負荷を減らすため、地元産の野菜や果物を選ぶようにしましょう。(肉に関しては、生産過程での温室効果ガスが大きいため、輸送は大きな問題ではなく、地元産にこだわる必要性はあまりありません)

このように、「気候に配慮した食」とは、生産や調理の過程で二酸化炭素の排出量が少ない食事です。隣にある輸入トマトが彩として良くても、地元でとれたキャベツを選ぶ。そういう毅然とした姿勢なのです。土地や季節を選ばず、何でも世界中から届くようになった今、食生活は限りなく豊かになりました。しかし、食に関して日本のメディアで目にするのは、グルメレポート、あるいは逆にダイエット、嵩増し節約料理、時短料理といったものばかりです。遠くから通販でのグルメお取り寄せや、ダイエットのために穀類を残す(つまり、捨てる)ことを推奨する様子は、気候への配慮は皆無に見えます。カロリーベースで38%(農林水産省2017年)とされる日本の食物自給率は、ただ輸入に頼っているからだけではなく、「輸入食品を欲する私たちがいるから」なのではないでしょうか。食への態度を気候に配慮したものにして食に対する姿勢を変えれば、自給率も自然と上がっていくように考えられます。

デンマークで注目される食は、特別おいしいことでもダイエットのためにカロリーが低いことでもなく、安全なオーガニックの食品や、動物の福祉に配慮した肉・卵類、そして輸送による二酸化炭素の排出を抑えた、その季節の国産の野菜や果物です。あらゆる食品でオーガニックのものが手に入るようになりましたが、それだけ妄信するのでなく、「冬に国産のオーガニックトマト(温室栽培のため生産過程において、非常に多くのエネルギーを要する)を買うよりは、輸送コスト(価格というよりも、二酸化炭素排出量)を含めてもスペインから輸入したトマトを買うほうが良い」と知らせる理性も大切です。

地元で手に入る季節に合った食材を使ったり、食物ロスを防ぐことで、自然と節約にもつながります。加工食品を生産・消費し、物流を使いながら何でも手に入れることが経済循環だという頭でいると、増え続ける世界の人口に新たなたんぱく源を確保することや、現在の食品ロスを減らす努力に模索している世界の潮流には、完全に取り残されます。2017年秋に放映されたNHKスペシャルの「激変する世界ビジネス”脱炭素革命”の衝撃」は、ヨーロッパで暮らす者ならばよくわかる日本の認識ギャップを表しています。

2018年に入ってから、100%植物ベースで作られた、ひき「肉」がスーパーマーケットに出てきましたが、当時はメディアでも市場でも大反響でした。天然食品添加物を除いた主原料は、大豆たんぱく、ココナッツオイル、大豆粉、小麦グルテン、アーモンド、カールヨハン(きのこ)、トマト、発酵グルコース、タピオカスターチ、塩、モルトエキスです。こうした市場は拡大してきており、植物ベースの卵やチーズも、販売され始めています。これはベジタリアンに対する配慮というだけではなく、気候へ負担を減らす運動の一つであるとみることができます。

国連によると、2050年には地球上の人口は97億人になると見込まれ、国連食糧計画はそのために少なくとも現在の1.6倍の食物生産が求められるとしています。しかし現在の食糧生産のやり方では生産量に限りがあるうえ、気候への負荷が大きく、これは難しくなっています。そこで持続可能な食糧源として、たんぱく源や栄養素の豊富な昆虫や海藻といったものが視野に入れられるようになってきました。広い面積の「栽培地」を必要とせず、数が十分にあるこれらの食物を、どのように人々に受容させるかというのが、気候変動と食に関連したキャンペーンではたびたび取り上げられています。もう一つの改善策は、生産される食べ物の3分の1以上が、結局人々の口に入らないままに処分されている事実、いわゆる食品ロスの改善です。閉店後のスーパーマーケットのコンテナなどで消費期限切れの食品を探しに行く様を表した、ダンプスター・ダイビングというアメリカの表現はデンマークでも使われるようになってきました。食物ロスを減らすためのアプリも開発され始めています。たとえば、レストランやカフェで事情により料理が余ってしまった場合に、アプリを使ってお知らせすることで、ごく少額の支払いでテイクアウト料理として引き取ることができます。大手スーパーマーケットチェーンがフードバンクと協力して開発したアプリ、“Mad skal spises(「食べ物は食べられないと」)”は、地元のパン屋などの食品店やスーパーマーケットで、どこに何が余っているかを一括で概観できるようにしたもので、国際的に知られたSAPイノヴェーション賞を2018年に受賞しています。

気候に配慮した食事というと、そのまま二酸化炭素の排出量だけを考えがちですが、それだけでは持続可能な食とはなりません。国連食糧農業機関(FAO)が出している「持続可能な食(sustainable food)」は以下の4つの基準を満たす必要があるとされています(Merete Myrup  Bæredygtig mad handler om mere end klima og CO2-aftryk)。 1. 栄養学的に適切で、安全で体にいいこと(動物性の食品がより環境に負担をかけるというのは紛れもない事実ですが、植物だけで補えない栄養素もあります) 2.環境を守り、敬意を示すものであること(二酸化炭素だけではなく、生産に関わる農地面積や水の使用量も考慮にいれる必要があります) 3.文化的に受け入れられること 4.安価であり誰にでも手に入れられるものであること。この著者はフランスの研究を引いて、食品が上記の基準を満たし持続可能である場合、二酸化炭素量の排出はこれまでのものから30パーセント以上抑えることはで不可能だと結論をもって、気候に配慮するだけではなく、牛乳や乳製品を適度にとることが栄養学的にも望ましい、と結論付けています。

食物生産のなかでも、とくに牛、羊の生産が温室効果ガスの排出に大きな割合を占めるため、デンマークではすでに10年ほどメディアや環境団体が牛肉・羊肉の購入・摂取を控えるように呼びかけています。食の西欧化が進む中国では、中産階級が肉をたくさん消費するようになったことで、二酸化炭素排出量の増加していることが問題視され始めています。これを危惧する中国栄養学会は2016年、俳優のシュワルツェネッガーやジェームズ・キャメロン監督を前面に出し、中国人に肉の消費を現在の約半分の年間27キロ程度に抑えるよう呼びかけるキャンペーンを行いました。中国は、すでに食を通じた二酸化炭素排出量の抑制を意識しているのです。

日本にはハチの幼虫やイナゴを食べる地方があり、また多種の海藻類は長い歴史の中で様々な形で食べられています。まさに、これからの多様なたんぱく源を考えるうえでの先駆けであるともいえます。それに加え、大根の皮、シイタケの軸やブロッコリーの芯を「もったいない」と料理に使う、「おばあちゃんの知恵」の伝統を備えてもいます。ここに立ち返れば、日本には将来の世界の気候に配慮した食づくりを指導していくポテンシャルがあるように思われます。世界に尊敬される実践は私たちの歴史の中にあり、環境のためにという毅然とした選択が自然災害をも防ぎうるカギを握っているのではないでしょうか。

    投稿者: Denjapaner

    2002年よりデンマーク在住。とくに教育、福祉、労働のテーマに関心を持つ。ストレスのない生活を目指して、のんびりと生活中。2015年生まれの子の母。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。