幸せなソロ・マザーの勧め(2019年12月執筆)
日本の少子化に歯止めがかかりません。1899年に統計を取り始めてから初めて、2019年の出生数が90万人を割る見込みというニュースがありました。2007年以降少子化担当大臣を設けたり、保育所の増設や幼保の無償化など、政府も対策を出しているものの、まだ効果をあげられているといえません。この課題を解消するには抜本的に日本社会の子ども、子育てに対する見方を転換する必要があります。
私の提案は、今パートナーがいなくても一人で子どもを産み育てる、ソロ・マザー(選択的シングルマザー)です。将来への不安から子どもを持つことを躊躇う夫婦もいる一方で、仕事を通じて経済力も獲得し、自立も適えた女性が、これからわざわざ婚活することに意味を見出せずも、迫る生物学的な期限を前に自分の子どもをほしい気持ちがでてきた、とも聞きます。
デンマークを含む欧米では、ソロ・マムやソロ・マザーといわれる選択的シングルマザーが見られるようになってきています。ドナーの精子によって女性が選択的に母親(シングルマザー)になるケースで、デンマーク語では一般にソロ・モア(solomor)と呼びます。父親を与えないまま子どもを産むことを母親のエゴだという議論もなされますが、強く望まれて生まれ、愛されて育つ子と、その時は関係が継続していてものちに離婚(事実婚の場合を多く含むが、ここでは日本の文脈に即して「離婚」と呼びます)して、ほとんど父親を知らないままに育つ子どもと、どのような違いがあるでしょうか。望まれて小さな命が一つ誕生するということの尊さは、育てる力がある母親の下に生れ落ちるのであれば、どんな議論をも跳ね返して価値のあることに思えます。その女性にとっても、子どもにとっても、そして日本社会にとっても。
ロスジェネと呼ばれる私たちアラフォー世代は、景気や社会制度に振り回され、損を重ねてきました。私が大学を卒業した年はまだ就職氷河期で、派遣という働き方がようやく知られ始めた頃で、卒業後の就職先を聞いて、「融通が利く派遣の働き方をすることにした」という人がいたのを覚えています。そのころはそんなものかと思って聞いていましたが、数年経つとその雇用制度における意味と位置づけを知ることになりました。非正規雇用によるワーキングプア状態から、子どもを産み育てることを躊躇する人も少なくないことはよく知られています。
無事に就職が決まり、省庁や大手企業で総合職に就いた人でも、体やメンタルに支障をきたして、結婚や妊娠が困難になることもあります。仕事が軌道に乗って、ようやく役職に重用されるようになってきたと思うと、今度は慌てて婚活を迫られたり、もしそれが上手くいっても今度はタイムリミットギリギリになってからの妊活や不妊治療で苦労する場合もあります。…私自身、このどのシナリオにも自分自身を重ねることができます。生きなかった自分の人生だけれど、日本に居続けたらこうあったかもしれない私の人生。仕事はしていたものの、いつの間にかアラフォーになっていて、パートナーもおらず、子どもは欲しいのにあれあれ、という自分。
今、そうした日本の女性に与えられた自由・選択肢は、卵子の凍結のようです。とりあえず、冷凍庫に入れて賞味期限を延ばしておこうという気持ち。でも、今後も婚活を続けても、50歳になってもこれという人に出会わなかったら?いや、50歳で出会っても、卵子さえあれば出産・子育てができるとはいえないでしょう。妊娠可能な時期にリミットがあるのは、女性が子育て可能な時期にある程度のリミットがあるためでもあります。卵子凍結は問題の先送りで、解決策ではありません。
産みたい人が、産みたいときに、それを応援する社会があれば。タイムリミットに至る前に出産しておけば、何年かして新しくパートナーがようやく見つかった時には、まっさらな「穴」にちょうどはまり込むように、 元夫の思い出や遺伝をもつのではない、ニュートラルな子どもの父親になることができるかもしれません。男性にとっても、子どもの父親像に比較対象がなければ、「継父」として家族に入っていくためのハードルは低いかもしれません。
女性が選択的に母親になることを決めたとき、そこに父親がいなくても、命が与えられていいと私は思います。私はソロ・マザーに共感しますし、それを可能とする社会は女性をエンパワーメントしていると考えます。自分の出自を知る権利についても、すでに倫理面からの議論が重ねられ年月が経つし、ある程度の解決策はついています。精子バンクでは、ドナー情報を多く開示をしている精子は価格が高くなっています。
世界初の試験管ベビーが生まれてからすでに40年がたち、体外受精で生まれることもも世界中ですでに500万人を超えています。生殖医療も社会的により受容されるようになってきており、日本でも将来的には子どもを持ちたい人はパートナーの有無や年齢にかかわらず、科学の力と経済力で手に入れるようになっていくでしょう。その中で、子どもの父親の遺伝子を選ぶ(つまり精子のプロフィールを精査して、選ぶ)ようになっていくデザイナーベビーの傾向は避けられないものでしょう。こうした傾向を優性思想と批判する人はいますが、女性が婚活で男性を条件で選ぶのと変わりありません。
デンマーク人の精子は他のヨーロッパ諸国と比べてその価格の低さと、よいルックスのため、デンマークの精子はとても人気があるようです。世界各地に輸出されているほか、「不妊治療ツーリズム」ともいわれるように、ドイツ、イギリス、ノルウェー、スウェーデンなどからデンマークにやってきて人工授精を受けるケースも数多く、2017年にはデンマーク全体で行われた人工授精数の約4分の1を占める、4691人が外国人の女性でした。これらの国では匿名の精子提供が法律で認められていないため、精子提供者が情報提供を嫌い、集まらない側面もあるといいます。デンマークの二大精子バンクはそれぞれ世界100か国、60か国に輸出するだけの数を揃え、大きな利益を上げています。世界最大の精子バンク、クリオスは日本にも進出したものの、日本の法律的に未整備な点が多いため、まだ日本人ドナーの登録はない状況のようです。
デンマーク人の父親を持つ、ハーフの子どもが欲しいと考えるソロ・マザー希望の方がいたら、ぜひ連絡をください。デンマークでの民間クリニックでの人工授精・体外受精を行うための、デンマーク滞在中のケアからクリニックの仲介や付き添い・通訳まで、Madogucciで責任をもってサポートします(具体的なプロセスを示したマニュアルがあります。お問い合わせください)!レズビアンカップルなど、選択的シングルマザー以外のご相談もお受けします。
子どもを育てていくためのある程度の経済力や、親などの家族からの支援・理解は求められるでしょう。しかし、惨めでない幸せなシングルマザーの生活はつかめます。私はソロ・マザーではありませんが、結婚はしておらず、出産前から機能的シングル(出産講習への参加などや助産師とのやりとりも全部ひとりでしました)だったので、今は選択的シングルマザー(SMCネットの高田真里さんの分類では「授かりシングルマザー」というよう)です。共同親権のため子どもと父親の関わりはありますが、子どもが生まれる前も生まれた後も子の父親とは一緒に暮らしていません。新生児のころから200㎞の両方の自宅の移動をしてきたので、子どもも慣れたものです。私の自宅があり、私のキッチンがある。面倒な「大人」の世話までしなくていいなんて、なんて楽なんだろうと思いながら、慎ましくも幸せに4歳の子どもと暮らしています。
政治的には、日本における嫡出子と非嫡出子の区別や、シングルマザー≒貧困のような偏見を解消していく必要があると考えています。子どもを望んで持つことができた幸せな母親の姿を増やしていくことで、将来の女性の選択肢を広げることができたらと考えています。「ハーフの子どもだと虐められる」という前時代的な偏見も、多文化共生時代を経るにしたがって解消されていくことを期待します。
日本に子どもが生まれること、日本で子どもが育っていくことを社会が喜び、応援するという前提が必要です。家族の形が実に多様になってきている今、非配偶者間での人工授精を可能にし、子ども産みたい、育てたいと望む場合には、非婚カップルや非婚シングル、同性カップルであっても、その可能性を開くことが望まれますし、こうした子どもや家族の形を受容する社会が できて、ようやく少子化の問題も徐々に解消されていくと考えます。幸せのカタチ、イロイロ。
